11月に予定の演奏会に向けた編曲をしました。
1.ソプラノとバリトンによる歌曲の演奏会
2.作曲:木下牧子 詩:まど・みちお「おんがく」
3.手応え
1.ソプラノとバリトンによる歌曲の演奏会
・昨年と同様にバリトンの歌手の方からのご依頼をいただき、ソプラノとバリトンの2重奏(とピアノ伴奏)の編曲をしました。ソプラノの高音とバリトンの低音は、それぞれの独特の美しい歌唱表現があり、和音には迫力の音勢があります。さらにピアノ伴奏が加わると、和音に複雑な奥行きが生まれます。歌詞は、まど・みちお「おんがく」です。詩人の瑞々しい感性が捉えた「音楽」の魅力が、宝石のような言葉で端的に綴られた詩です。演奏会は、観客と演奏者の距離の近いサロン形式で行われます。クラシックの音楽の響きにゆっくり浸る豊かなひとときを楽しめると想像しています。
2.作曲:木下牧子 詩:まど・みちお「おんがく」
・名実ともに堅実なベテラン作曲家による原曲は、端然とした書法ながら、詩に相応しく有機的でのびのびとした歌を描いています。歌い易い滑らかな音程の進行とフレーズ、優しい緊張感をもった旋法的な転調、弱起を効果的に使ったシラブルの配置、詩と同調した適切なクライマックス、とても優秀な作品です。
・作詩のまど・みちおは、「ぞうさん」や、「やぎさんゆうびん」が有名です。
詩人の才覚が、短い言葉で対象を鋭く切り取りますが、その切り口はドキッとするほど瑞々しく、大宇宙の中でたった一つの奇跡に直面している事実を直感させられるような、力強く鮮やかです。
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・おんがく
まど・みちお 詩
かみさまだったら
みえるのかしら
みみを ふさいで
おんがくを ながめていたい
目もつぶって 花のかおりへのように
おんがくに かお よせていたい
口にふくんで まっていたい
シャーベットのように広がってくるのを
そして ほほずりしていたい
そのむねに だかれて
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3.手応え
・編曲が効率が良くなりました。既存の音楽に新たに対旋律を加えたり、和音の響きに彩色を加えたり、クライマックスも以前より短時間に作れるようになりました。
ロマン主義的な書法に倣えば、音楽が少しずつ雄弁になり、音域が広がり、音量が大きくなり、音符が細かくなり、音数が増加、対旋律が躍動し、大きな頂点の衝撃を予感させるようなパラフレーズが現れ、その頻度が上がってゆく…などがクライマックスの書法ですが、最近は作者の動機や、演奏者の情熱、聴衆の集中の臨場感も、リアルに想像しながら、葛藤しながらもある程度は自在に扱えるようになってきました。最近の大きなライブ演奏経験の影響だろうと思われます。
感性豊かなまどみちおの言葉を借りれば、例えば「朝顔」の瑞々しい開花の瞬間に出会った驚きや嬉しさも、宇宙の中のたった一つの奇跡との出会いによる衝撃に他なりません。音楽の演奏も、宇宙の中のたった一つの奇跡との出会いの連続といえましょう。どうやって宇宙の中のたった一つの奇跡を感じられるような音を描くかという命題は、学生時代の恩師にも教示いただきました。この普遍的な課題がより身近になり、より実践的に向き合う段階になってきたのだと考えています。
演奏会が楽しみです!